はじめに
こんにちは。東京蕎麦キッチンの野中朝子です。今日は蕎麦を食べることの健康効果についてお伝えしていきたいと思います。特に、長年の仕事勤めも落ち着いて、新しいセカンドライフにそばうちをと考えているあなたに聞いてもらえたら嬉しいです。
日本人の伝統的な食といえる蕎麦を自分で作ることは、とてもいい新しい趣味になりますし、何よりあなたの健康寿命を延ばすかもしれません。蕎麦は非常にこわい病気の「がん」の予防や「心臓病」の予防や改善に効果があることがわかってきています。
蕎麦が健康に良いというのはいろんなところで言われていますが、その根拠について今回は4点お伝えします。
1心臓病の予防や改善が望めるビタミンB1
2お酒のシメは蕎麦がいい理由
3大腸がんを予防する食物繊維
4糖尿病予防や管理に役立つ低GI値
の4点です。
健康寿命を伸ばすための食べ方や注意点などもお伝えしていきます。
では早速解説していきます。
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1 心臓病の予防や改善が望めるビタミンB1
蕎麦は人間が生きるために必要なエネルギー源になる糖質を主体とする食べ物です。そして、糖質の他にも他の栄養素が多く入っていてスーパーフードと呼ぶにふさわしいものと言えます。蕎麦に入っている栄養素は糖質の他に、タンパク質、食物繊維、ビタミンB1、ビタミンB2, 葉酸、カルシウム、マグネシウム、ルチンなど非常に豊富です。
その中のビタミンB1について考えていきましょう。
ビタミンB1は不足することで様々な病気を引き起こします。代表的なものは「脚気」といいますが、昔聞いたことのある「過去の病気」というイメージが強いと思います。手足の感覚が乏しくなるなどの末梢神経障害と呼ばれる病気や、脚気心(かっけしん)とよばれる心不全が社会的に問題となっていました。
その後さまざまな機関の働きかけでビタミンB1不足は減り脚気と診断される人はかなり少なくなってきていますが、
しかし実は現代人は生活習慣の変化や、高齢化、アルコールの摂取などによってビタミンB1不足が進んできており、脚気といわれるほどの欠乏症でなくても三大疾病である心臓病への影響が強いことがわかってきています(1)。
心不全とは全身に血液を送り出すポンプの役割をしている心臓に、なんらかの原因で負担がかかってしまい、体がむくんでしまったり、肺に影響して、息苦しくなる病気です。
この心不全とビタミンB1不足は非常に密接な関わりがあることがわかってきています。
実は心不全の患者さんの血液中ビタミンB1濃度をチェックすると、ビタミンB1が少ないひとほど心不全が重症であったという報告があります(2)。
また心筋梗塞という心臓に血液を送り出す重要な血管が詰まってしまった患者さんにビタミンB1を投与することで、その後の状態をよくすることもわかってきています(3)。
他にもビタミンB1と心臓病の関連を調べた報告は多数ありますが、いずれもビタミンB1は心臓病の予防や心臓病の改善にも効果がある可能性が高いことがわかっています。
蕎麦はビタミンB1を多く含みますので、心臓病のリスクが増えてくる40代以上の方にはおすすめの食材です。
しかし塩分のとり過ぎには十分注意が必要です。塩分を取りすぎることで高血圧となってしまい、その状態が続くことで心臓や血管に負担がかかり心臓病を引き起こしてしまいます。
これまで高血圧と言われたことのない人でも、体格にあわせて1日6~8gくらいに抑えてあげるのが良いとされています。すでに高血圧や心臓病をもっている方は6g以内という厳しい制限が必要になることが多いです。
塩分制限と蕎麦というのは少し矛盾しているようにも思えますが、冷たい蕎麦であれば麺を半分くらいつけて食べる、温かい蕎麦であれば汁は飲まないなどとすることで、で十分塩分制限をクリアすることができます。蕎麦本来の香りや旨味を堪能するのが、体にも優しい食べ方ですね。
塩分に気をつけながら蕎麦を食べることで、将来の心臓病を予防する良質なビタミンを取りましょう。
次は「お酒のシメは蕎麦がいい理由」です。
2 お酒のシメは蕎麦がいい理由
ビタミンB1不足は特に飲酒量の多い人によくみられます。これはアルコールによる吸収障害と、お酒を飲んで食べ物を食べない場合に、必要な栄養素を取れていないことなどが原因と考えられます。
先ほど説明しましたように、蕎麦はビタミンB1を多く含みますので、お酒を多く飲む方にはシメはラーメンではなく蕎麦をとることをお勧めします。
お酒を飲んだときは、ついつい塩分の多いものを取りがちになりますが、汁の塩分には気をつけて蕎麦本来の味を楽しむ食べ方をすることが、みなさんの健康に繋がると思っています。
結論は、お酒はほどほどにした上で、必要な栄養素を取ることを意識していただけたらと思います。でもそういう私もたまには沢山飲んじゃいますよね。
3 大腸がんを予防するそばの食物繊維
大腸癌は近年非常に増えてきていて、命に関わることの多い癌です。2019年の調べによると、男性の癌による死因は1位肺がん、2位胃がん、3位大腸がん。女性癌による死因は1位大腸がん、2位肺がん、3位膵臓がんとなっています。
2019年人口動態統計がん死亡データ調べ
手術可能な状態で発見できたとしても、抗がん剤が必要になるなど非常に生活を大きく変えてしまう病気です。
肺がんや胃がんなども命に関わる重要な病気ではありますが、肺がんはタバコを控えることで、胃がんはピロリ菌を除菌することでその可能性を下げることができます。しかし大腸がんは現代の食事がますます危険性をあげてしまい、誰にでもなりうる怖い病気です。
大腸がんにかかる人や大腸がんで死亡してしまう人が増えてきている中で、大腸カメラを専門とする日本消化器内視鏡学会が2020年に「大腸癌の危険性をあげるもの」、「さげるもの」を発表しました。(4)
大腸癌の危険性を上げるものとして、特に気をつけなければならないものは「過量のアルコール、加工肉、肥満」です。そして次に大腸癌の可能性を高めるものとして「喫煙、赤身肉の多量摂取」があります。
逆に、大腸癌の危険性を下げる可能性が高いものとして発表されたのが「食物繊維、全粒粉穀物、乳製品、カルシウム、運動習慣」です。
一部の蕎麦は殻ごと全粒粉穀物から造られたりしますし、また全粒粉でなくても外側に近いほど食物繊維が多く含まれています。
カルシウムやマグネシウムをはじめとしたミネラルも豊富であることを考えると、大腸癌予防にはもってこいの主食だと言えます。
食物繊維を取るために野菜を増やすことも重要ですが、主食から食物繊維を取ることのできる蕎麦は非常に健康的だと言えます。
4 糖尿病予防や管理に役立つ低GI値
GI値という言葉が非常に一般的になってきていますよね。
簡単に言えば、その食事がどれほど急激に血糖値をあげるかという指標になります。
GI値は、糖質それぞれの特性や食物繊維の量などによって決まってきます。蕎麦は一般にGI値の低い部類になり、人間のエネルギーの中心となる糖質の中では非常に優れた存在です。急激な血糖値の上昇を抑えることで、インスリン分泌をおだやかにするので、糖尿病の予防や管理に有用な食べ物と言えます。
糖尿病だからといって糖質を一切とらないというのは不可能です。生きるために必要な糖質をどのような形で取るかが重要になってきます。その中で蕎麦という選択肢は非常に魅力的だと思います。
5 まとめ
蕎麦は人間が生きていくためのエネルギーとなるだけでなく、大腸癌がんや心臓病の予防をしてくれて、血糖値の急上昇も抑えてくれるとても良い糖質ということがお分かりいただけたかと思います。
一般に売られている蕎麦はそば粉の他にどのくらい小麦粉が含まれているかは、それぞれ違っていますので、成分表をチェックしてみてください。
蕎麦粉の量を自分で調節できる蕎麦打ちは、非常に健康的で良い趣味だと思います。みなさんの健康面の心配も吹き飛ばすのをお手伝いすべく、美味しく正しい作り方、味わい方を一緒に学んでいきたいと思います。
手打ちそばを習ってみたいと思う方は是非、東京蕎麦キッチンの手打ちそば教室にお越しくださいませ。
参考文献:
(1)Pourhassan M, et al. Prevalence of thiamine deficiency in older hospitalized patients. Clin Interv Aging. 2018;13:2247-50.
(2)田中清ら;高齢者心不全におけるビタミンB1不足の意義、ビタミン92;11:516,2018
(3)DiNicolantonio JJ, et al: Thiamine supplementation for the treatment of heart failure: a review of the literature. Congest Heart Fail. 2013;19(4):214-22.
(4)日本消化器内視鏡学会;大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン
,2020年.